映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
※映画と原作本のネタバレを含みます。
原作本を読んでいても、映画でハッとさせられたことがありました。
それは思いの外、きちんと三角関係の話だったということ。
原作本で、シカノさんが結婚と離婚を経験していることは知っていたはずなのに。
でも心の何処かで、映画では首と手首から先しか動かせないひとと、恋愛関係になるはずないって思っていたことに気付かされた瞬間。
ミサキがシカノを好きになると言っても、人として好き、の範囲だと勝手に決めつけていた自分に気づいた瞬間。
とても恥ずかしく思ったのです。
その人のことがもっと知りたいと思い、触れたいと思い、触れ合いたいと思うことは、至極自然な流れです。
でも、車椅子に乗ってるひとを性的な目で見るなんて、失礼で不謹慎なのではとさえ思っていた私の考えを、この映画はぶっ飛ばしてくれました。
人間同士なのだから、強い口調で責めたっておかしくない。
そして、抱きたい、抱かれたいと思ったっておかしくないのに。
ちなみに、ジョンは海綿体だから筋ジスと関係ない、という言葉は実際にシカノさんが語られた言葉だということを言い添えておきます。
ちゃんと本に書いといて、とおっしゃったそうです。
あとやっぱり皆さんお芝居が素晴らしくって。
セリフを言ってるのではなく、生の言葉を話しているかのようなお芝居に長けた人たちばっかりだったので、リアル感が半端じゃない。
大泉さんがまた、苦しさは伝わるけど、見ているのが辛くなったりはしない、の塩梅が絶妙で有り難かったのです。
そして筋ジス患者という枠組みにはおさめず、その時その時の感情を丁寧に真摯に向き合って演じておられるのが素晴らしく。
私はこの映画で涙は流れませんでしたが、筋ジス患者が主役の映画で、泣けないのにこんなに面白いってすごい。
大泉さんが藻岩高校に入学するころ、シカノさんは窓から藻岩山の見える精神科のクリニックに通っていました。
そしてシカノさんが実際暮らしていた部屋で撮影できた映画がこのたび、公開されています。
もし、映画を見て原作本は未読だという方がいましたら、ぜひ読んでみてください。
お忙しければ、まずはプロローグだけでも。
映画ではあんなに“鹿野さん”以外の何でもなかった鹿野さんですが、原作本を読むとすごく大泉洋っぽくて驚かれると思います。
さて。
私がこの映画で好きなシーンは、ミサキにAVが見つかったシーンと、皆が笑顔で歌っている中、ベテランボラ役の宇野さんが必死にアンビューバッグを握っているシーンです。
そして、鹿野さんの両親が、息子からの手紙を読むシーンです。
あの手紙がいつ書かれたものかはわかりませんが、おそらくボラの代筆なのだろうと思います。
手紙の文字を点々と滲ませる涙の跡は、鹿野さんの声を聞き取り代筆するボラのものなのだろうと思ったら、たまらない気持ちになりました。
もう一回劇場で見たい!!