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感想文置き場

Twitterに書ききれない諸々の感想文などを。主にナックスさんたち。

『日の本一の大悪党』6/14昼

※ネタバレしてますのでお気をつけください。



有り難いご縁がありまして、観に行ってまいりました。

この『日の本一の大悪党』の伊右衛門は、とかく優男。

女たちいわく、おひさまのにおいがするそうです。

静かに笑い、欲がなく、性善説のひと。

そしてそれを支える貞淑な妻、お岩。

病弱で幸薄そうなせいであまり魅力的な女性には見えなかったけど、最後の微笑みがぞっとするほどいい女でしたね。

それまで一途で献身的な彼女がずっと幽霊のように見えていたんですが、本物の幽霊になったあとのあの微笑みがいちばん“血のかよった人間”に見えまして。

お岩さんのひとり勝ち、格好いいとさえ思ったね。

「ひとり勝ち」と言いましたが今回のこれらの悲劇、お岩が魅力的な女であったのと同時に、伊右衛門も魅力的な男であったから起こったことでした。

伊右衛門に想いを寄せる人間が、あそこにも、ここにも。

お梅はまだよかった。かわいい片思いだったから。

お岩という妻がいることがわかった後、宅悦にかき回されなければちゃんと身を引くことができたはずだった。

厄介だったのが伊右衛門の幼なじみの松之助ですよね。

お岩に負けず劣らずの伊右衛門への執着。

そんな伊右衛門の愛を一身にうけるお岩への羨望。

でも松之助は、最後は報われたと思いました私。

あれだけ自分だけのものにしたかった伊右衛門を、自分の手で亡き者にすることができたわけですから。

伊右衛門に抱き締められた女たちが「おひさまのにおいがする」って言いますけど、伊右衛門を刀で斬りつけその体を掻き抱いた松之助は、きっとそのおひさまのにおいを胸いっぱいに吸い込んだのでしょうから。

伊右衛門の魂はお岩が持っていってしまったけれど、その肉体は松之助の腕の中にあるわけですから。

このお芝居の元となった東海道四谷怪談、忠臣蔵の外伝なのは有名な話ですけれど、松之助はあの後、討ち入りに参加したんですかね。

東海道四谷怪談では、伊右衛門を討ち取った与茂七がたしか討ち入りに参加して……ましたよね?

痛恨のあやふやですけどもw

むしろあれかな。

伊右衛門を亡き者にしたときはおひさまのにおいが濃い血のにおいで掻き消されちゃったけど、討ち入り後の斬首刑執行時、松之助の鼻先をふうわりとおひさまのにおいがかすめたりしたのかな。

なんつってね。妄想甚だしいねwww

そう言えば東海道四谷怪談といえば、戸板の裏返しを思わせるような動きが『日の本一の大悪党』にもあったのが個人的に興奮ポイントでした。

お岩と伊右衛門でしたけどね。

背中合わせにくるりと場所を入れ換える演出があったのですよ。

すべてはこの二人の大掛かりな心中だったのかと思えば、ちょっとぞっとするわね。

お岩は、最後の微笑みにもあるとおり、伊右衛門と地獄に堕ちて幸せなんでしょう。

伊右衛門もお岩と一緒ならそれも救済となるのだろうし。

喜兵衛とお市は自業自得ですし(唯一、私が心から憎めたのがお市だった)、

宅悦はまあ、芝居を展開していくうえでの装置的な役割なので、伊右衛門に斬り捨てられてこそって感じですしね。

松之助は前述のとおり、愛する伊右衛門を自ら手にかけることができてある意味、報われたと言えるでしょうし。

そうなると気にかかるのがお梅。

彼女だけなんの罪も犯してないよね?

そして救いも報いもないよね?

宅悦の口車に乗って薬を渡してしまったからか?

それだけで一発アウトだったのでしょうか。

山野さんの演じっぷりがまたチャーミングだっただけに、お梅に感情移入してしまってかわいそうでかわいそうで。

伊右衛門に恋をしていたのは事実だけど、お岩も含めた民谷夫妻をちゃんと愛してくれていたのはお梅だけだったじゃない……

だから私はお市を憎めたんですよね。

お梅に「伊右衛門祝言をあげろ」と説得するところでは

「喜兵衛に『そんなむごいこと』と言ったのはどこのどなた様でしたっけ」

と思ったし、

「『もう後には戻れない』ってそれはお前の都合で、お梅はまだいくらでも戻れるじゃないか」

と思ったし。

喜兵衛のお妾さんでもあったのかもしれないけど、でも飽くまでまだ女中なんですよね彼女。

お店の主人である喜兵衛はともかく、お市は奉公人の分際でなんてことしてくれたんだ、と思ったらば、まあ~憎めますよね~www

そう言えば、伊右衛門が冒頭でうなされてたのは何だったんでしたっけ。

過去になんかありましたっけ。

なんかあったのはお岩だけじゃなかったでしたっけ。

既にお岩にとり殺されそうになってたってことかな?

ちょっと、うん、一回見ただけじゃ解んないや色々と。

安田顕ファンと致しましては、かの有名な安田汁を生で見られたってところと、

あとハラハラの大立回りですかね。

あとあの喉を「グッグッグッ」って鳴らす笑いかたあるじゃないですか。

安田さんとか大泉さんとかが爆笑したときになる笑いかた。

あれがね、まさに笑っているのに泣いているってやつで。好きでした。


でもひとつだけ。

芝居の序盤はなんというか……話し方が限りなく安田さんなんですよね。

あの独特の言い回しというかイントネーションというかあるじゃないですか。

室蘭の訛りなのかな……『悪童』では出てないんだけど『問題のあるレストラン』や『重版出来!』ではちょいちょい出てたあれ。

ああいう台詞回しだったので、見てる側として安田顕感が抜けなかったというか……

慣れれば心根の美しい優しい民谷伊右衛門として見られるんですけど、それまでわりと顕さんとして見てしまって我ながら悔しかった。

もっと集中できていれば……!