『PARAMUSHIR〜信じ続けた士魂の旗を掲げて』3/28夜
※千穐楽を迎えられたということでネタバレしております。
円盤化をお待ちの方はご注意ください。
TEAM NACS最新作。
5人が舞台で芝居をしているのを生で見るのは今回が初めてでした。
オープニングから“演出・森崎博之”全開で、リーダーの華々しい演出と、NAOTOさんのドラマチックな音楽があわさり生み出される爆発力たるや。
全編通したその色の強さ。
なので、泣けるとの評判が目立った今作でしたが、私は泣かなかったです。
感動しなかったわけじゃないんです。
悲しくならなかったわけでもないんです。
裏方含めたプロフェッショナルたちのお仕事に、ただただ目を奪われてしまいました。
そしてリーダー演出ならではの、怒涛の音合わせに、既存の曲の効果的な使われ方。
というかぶっちゃけますと、ずっとニヤニヤしてました私。
頭の中で中島誠之助氏が「い〜い仕事してますねぇ〜」と唸りっぱなしで御座いました。
第二次世界大戦の折、日本領において行われた地上戦は沖縄、硫黄島あたりが有名ですが、北の地、千島列島もその舞台となりました。
この島の名前を読めるひとは少ないと思います。
それが一体どういうことなのか。
強く考えさせられる内容となっておりました。
確かに、デリケートな題材です。その出来事から100年も経ってないのですから。
いままでNACSが題材に選んできた、戦国時代や幕末時代とは訳が違う。NACSが題材に選ぶには重いかもしれない。
でも、これはプロパガンダではないのです。
北海道を愛し、恩返しをしたいと語る彼らのいる劇団だからこそ打てた公演だと思います。
森崎さんはこう語っています。
「自分たちより先に、他の誰かがこの題材を扱ったとしたら、地団駄踏むほど悔しいだろう」と。
それでいいのだと思います。
やりたかったからやった。
年齢も40をこえて、役者としての地位もある程度確立された今。
伝えたいと思ったから。演じてみたいと思ったから。
難しい題材に挑む彼らと、混乱の中で侵攻してくる敵兵に挑んでいく舞台上の彼らが被って見えて、よい効果を生み出しているように見えました。
今回のこのPARAMUSHIR、NACSはもちろん、アンサンブルが素晴らしかったなあと思っていて。
カテコで出演者全員並んだとき、「これだけ!?」と思ったんですよね。観劇中はその倍はいるかのような錯覚を起こしていたので。それだけのご活躍、そして熱量の高いお芝居。
みなさん良かったんですが、特にスパガのお二人が良かった…
本編終盤、何か特別な言葉を発することはなかったですが、桜庭を見つめるひとりの老人。
ヒゲ等で分かりづらかったんですけど、あれは松尾さんでよかったんですよね?
ライブビューイングでは抜かれたりしたのでしょうか。仕事で行けなかったのが悔やまれますが。
彼はあの後、桜庭に声をかけるんでしょうか。
わかりませんが、ただ黙って桜庭を見つめるその姿に、胸が締め付けられる想いでした。
…ここまで言っといて松尾さんじゃなかったらどうしよう笑
そして、舞台に彩りを添える婦人のみなさん。
歌はもちろん、よかったなんて言葉では片付けられないくらいだったんですが……あの無力感っていうんですか。
自分たちのために戦う兵隊さんたちを残して疎開しなければならない、あの残酷な無力感。
だからこそ際立つ桜庭の想い。
好きです。
あと、過酷なシーンであればあるほど、透明感のある美しい曲がかかるのもとても好みでした。
チハを盾に銃撃戦が繰り広げられるところとかね。
そうだチハといえば!!
今回のこのお芝居、NACSとアンサンブルに加え、もうひとりの出演者と言っていいんじゃないでしょうか。
中型戦車のチハ車。
またイ〜イ表情をするんですよ……舞台セットに何言ってんだと思われるかもですけど……
NACSで言うと『HONOR』の白樺、あとKKP『TAKE OFF』のハエもそうなんですけど、セットそのものが愛おしくなる舞台ってあるじゃないですか。
好きなんです。ああいうの。
ONE PIECEのメリー号のエピソードで、頭痛くなるくらい泣いちゃう人間なので。ああいうの弱いんです。
観劇中こそニヤニヤしてた私ですが、一晩置いた後の引きずりっぷりといったらなくてですね。
喫茶店のメニューでカレーを見つけてはしょんぼりし、ナット・キング・コールのスマイルをダウンロードしヘビロテしてはしょんぼりしてます。
題材の重さもそうですが、みなさんの芝居に食われた、というのが最も近いように思います。
人の命を奪うという行為は、過去のNACS本公演でも描写されましたが、その奪われた人命の数で言うと今回がダントツですかね。
いままでは戦国武将だったり幕末の志士だったりしたので、自らそこに飛び込んだような人たちですけど……
今回のPARAMUSHIRは士官学校出身の小宮はともかく(家の事情で仕方なかったとしても)徴兵組の心中たるや…想像が及びもつきませんが。
そういえば、それぞれの階級の話。
小宮は士官学校出身なので少尉ですけど、
田中は二等兵なので、見た目通りにおそらく一番若いんでしょう。
桜庭は上等兵。戦場で何か手柄を上げたか、単に長くいる間に階級が上がっていったか。
矢野は整備兵なので置いておくとして、気になるのは水島ですよね。
軍曹ということは、彼も田中や桜庭と同じように二等兵から始まって、手柄を上げる等して階級を上げていき、そして他薦か選抜を経ているというわけですからね。
序盤でも描写されているとおり、玉音放送のそのときまでは彼も確かに武人だったんでしょうが、やっぱりあの〜…置いてきた妻と娘に対する想いを吐露するシーンが強烈だったのでね……
私を滅したままソ連軍を迎えていたなら、彼もまた違った道を辿っていたろうなあと……
そういえば、リーダー作の舞台は(今回は別に脚本家さんがいますが)“主役”のいる舞台だったよなあと、終盤も終盤で思い出しました。
50年後、桜庭だけが生き残ったと知ってようやっと。
役柄としても、やっぱりダントツ難しかったんじゃないでしょうか。サブリーダーは。
涙も出ないほどの絶望の淵にいる彼。
でも戦場の真っ只中、ラジオで敵性音楽の『smile』を聞き、仲間と語らい、冗談を言って、笑う。
声や表情にあそこまでの感情を乗せつつ涙は流さないというのも、また難しいのだろうなあと思いました。
そして5人の中で唯一官吏の小宮。
リーダーといえば叫びですが、今回マイク越しとはいえ生で聞いた叫びの圧ったらなかったですね。胸の奥深くを揺さぶられる(物理)って感じで。
あと動きの華々しさがもう。あんなん見ちゃうわ。常にいくら目があっても足りない状態だったんですが、主にリーダーのせい。あんなん目を奪われるに決まってますわ。
田中は、キャラとして悪童のチャックと似たような系統ではあるんですが、チャックはやっぱりどこかファンタジーといいますか。
ほんとに四十路か?というお花畑な面があるキャラクターでしたが、田中はそういうのはないんですよね。
ちょっと暢気なところがありますけれど、それも生い立ちが生い立ちですからね、ちょっとやそっとじゃ動じない強さのある人物なのかなあと。
かと思えば、誰よりもパニックになってたりするんですが笑
敵を味方のところへ引き連れてきちゃったところなんて、絶対笑うような事態じゃないのに笑っちゃうのは、戸次さんのあの必死フェイスのせいだと思う笑
矢野整備兵も難しそうな役でしたねー。
序盤の「あいつは頭がおかしい」の流れからの、チハのハッチが開いてひとりの兵士が出てきたときの「そういうことかぁ〜!!」の気持ちよさったら。そういう方向の頭のおかしさかぁ〜!!
同じ風景を見ていたとして、桜庭に対して親近感というか…憧れ?に近い感情を向ける矢野がまた危なげでね…
稽古から千穐楽まで、アクシデント等いろいろあったみたいですが、最後まで走り抜かれたこと、誇りにおもいます。
……本当です。